バッグ染め直しの工程
バッグの染め直しの工程は一度製品化されているものが傷んだ状態をお直しをするという性質上、新しい革を染めたり塗装を施すのとは異なる難しさもあります。
表面の塗装がはがれたり劣化していたりという状態のバッグもあり、染め直してもすぐに剥がれてしまったり、そもそも塗料が色落ちしやすかったりということではお客様にご満足いただけないので、試行錯誤によって得たノウハウを基にお直しをした後もできる限り長くご愛用頂けるよう最善を尽くしています。
下処理
しっかりと革に色を定着させるには、革を染める前の下処理の段階から丁寧に行う必要があります。
革の性質に応じたクリーナーで汚れを除去し、必要に応じて劣化した塗料の剥離や不必要な油分の脱脂などを行います。
また、塗料が革に定着しやすくなるようにあらかじめベースとなる定着剤を全体にコーティングする場合もあります。
塗料へのこだわり
一般的な塗料
自然な風合いの染料で染められた革と発色の良い顔料で表面が加工された革とでは当然、補修の方法も使われる染料、塗料も異なるので革の性質によってさまざまなものを使い分けています。
一例として、使う頻度の高い塗料ということに的を絞ってお話させていただきたいと思います。バッグの染め直しを行う専門店は多くありますが、アクリル塗料もしくはウレタン塗料で単層を作った後にスプレーなどでコーティングして定着させる方法が一般的です。
アクリル塗料
ご自宅でもお使いいただける市販の補色クリームなどにも使われているのがアクリル塗料となります。安価で発色が良く手軽に使えますのでご自身でもできるような簡易的なお直しですとそれでも十分かと思われます。ただし、アクリル塗料は硬さがあるため表面が固くなってしまい革の質感が変わってしまったり、硬いがゆえに柔軟な動きに耐えられず補修した部分が割れてしまったりと耐久性と持続性にやや難点があります。
ウレタン塗料
それに比べてウレタン塗料は柔らかさがあり密着性も高く、また色の種類も豊富ですので幅広く使える塗料となります。
ただし、ウレタン塗料は単体では色が落ちやすくトップコートという溶剤でコーティングをかける必要があります。トップコートをかけると耐久性は高まりますが、必要以上に光沢(テカリ)が出てしまうため、発色が良い派手な印象の革にはそれがよかったりもするのですが、落ち着いた雰囲気の上質な革の雰囲気にはそぐわなかったりもします。またトップコートはシンナー系の成分が含まれているので多用することは作業者や環境にとってあまり良いとは言えません。
ウレタン+シリコン塗料
このようなデメリットを解消するために、私たちが選んだのがウレタン層の上にシリコン層を形成することのできる塗料になります。ウレタン層の上に形成されるシリコン層は柔軟性と耐久性を兼ね備えているため革本来の柔らかさを生かしやすいのと表面が摩擦などに強く長持ちします。
アクリルやウレタン塗料に比べやや値段が高いのと扱いが少し難しく、きれいにウレタン層を形成させるために一度塗料を混ぜ合わせて色を作成した後に、濾し(こし)紙で塗料を濾し(こし)て不純物が混ざらないように滑らかにするなどの工夫も必要となります。
それでもトップコートをかける必要がなく不自然なテカリのない革本来の風合いに近い仕上がりになるため、モデルにもよりますがエルメスやシャネルなどのバッグの染め直しをする際にはほぼこの塗料を使用します。
色の調合
いくら良い塗料を使っていると言ったところで、色自体があっていないと意味がありません。
色の調合、染め直しに関しては色彩感覚に優れた女性スタッフが担当しています。業界歴は15年ほどのベテランスタッフです。
男性、女性ということは関係はありませんし数をこなすということも大切になりますが、人による得意、不得意はあるようで苦手な方ですと何年もやっていてもなかなかきちんとできるようにはならなかったりもします。
バッグの色を見ればすぐにどの色をどれだけ合わせるかが頭に浮かんでしまう。一見するとなぜ今この色を足したのか理解できないけれどその色を足すことによって色がぴったりと合ってしまったり、全く同じ色でも光沢の違いで違う色に見えているということを見抜いたり、この作業も突き詰めればなかなか奥が深いものです。
ガン吹きと筆染め
出来上がった塗料をスプレーガンや筆を使いバッグを染め直していきます。
均一に染料や塗料を行きわたらせたい場合や素材によって筆染めができないものはエアガンによる吹付けで染めていきます。
この作業にはちょうどよい空気圧と塗料のバランスになるよう調整が必要です。
逆にエアガンでは染められない細かな部分やステッチに色を入れないように色を入れていくなどの繊細な作業は筆染めにより行います。
濃いシミを厚塗りにならないように消すにはどうするのか、筆跡が付かないようにするにはどうするかなど、少し大げさな言い方をすると企業秘密の部分となってしまうので詳しくは書くことができないのですが、筆染めは突き詰めれば多くの技術を必要とする作業です。